「その転職、きっとXXXXXXと思うよ」

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 自分にはステータスがある。それを強く感じるのは、所属する会社名を名乗ったときの、相手の反応だ。
 
 何しろ、この会社の名前を知らない人は世の中にはいない───いや、ひとりぐらいはいるかもしれないが、街中の大人10人に訊けば、おおよそ全員が「知ってる」と頷くだろう。
 
 お金?収入はまあ、それなりにいい。友人に言わせれば「すごくいい」そうなんだが、それでもナントカコンサルや、ナントカ商社マンに比べれば、微々たる待遇だ。
 
 ただ、有難いことに年々昇給している。先日、やたら退屈な研修を受けたが、どうやらそれが昇給に必要な研修だったというから驚きだ。おそらく、大した成果を出さなくても、真面目にコツコツと働けば、きっとこのまま収入を上げていくことができるだろう。
 もちろん、役職がすぐにつくわけではない。だがこのままいけば仮に平社員のままであっても生活には困らないだろうし、社会的信用も申し分無い。家を買うためのお金も、銀行から容易に借りることが出来るだろう。子供を養うにも十分だ。
 
 ……そう、収入や待遇に関して、不満なんて何ひとつ無い。それなのに、贅沢なのだろうか。自分はこのまま「何者にもなれないのではないか」という不安に、年々押し潰されそうになる。
 
 言わせて貰えば、仕事だって半分以上はつまらない。
 
 たとえば稟議書は句読点の付け方ひとつで却下される。企画書はフォントサイズがどうとかで差し戻される。責任者はというと、社長や幹部に上手く取り入った者だけがその席を埋めていた。
 上司の言葉が絶対で、自分が思うように仕事をすることなんて出来ない。言ってみれば裁量というものが無い。
 それと会議も非常に長い。3時間か4時間くらいはザラだ。3時間あったら何が出来るだろう。いくつ内職したって時間が余る。
 
 稟議書を細かく丁寧に書き上げることで、スキルと呼べるものが身につくだろうか。
 企画書の体裁を整えられるようになることで、自分はどこへ辿り着けるんだろう。
 上司に言われるがまま仕事をして、アイデアはすべて潰されて、無駄に長い会議で時間を浪費して───自分はこんな会社で、仕事をこれから先数十年と続けていくのか。そう考えると寒気がする。
 
 そうだ、仕事ではないが飲み会についても面倒が多い。まず出席を断ろうものならカミナリが落ちる。会の最中も常に座敷の合間を小走りで注文取りしなければならない。空いたグラスには真っ先に気が付き、手際良く焼酎を作る。飲み会での自分は、いつだって小間使いだ。これで上司が多めに払ってくれなかったら、途中で放り出していただろう。
 
 正直、こんなのはもう懲り懲りなんだ。
 
 もっと自分のスキルを付けたい。思うように仕事をしたい。面倒な付き合いも無くしたい。
 
 だってこんなの、いくら会社が有名だからって、収入が良くたって、これから先の貴重な人生の時間を費やす価値が見出せると思う?
 
 
 
 
 「それで、転職したいんだって?」
 「うん、色々考えたけど。自分の市場価値を高めるには、やっぱりベンチャーが良いと思うんだ」
 「ふうん。君がいる会社、良い会社だと思うんだけどね。世の中じゃ入りたくたって入れない人のほうが多いだろうに」
 「いやいや、実際中にいるとキツイよ。外から見ただけじゃわからないだろうけど」
 
 「なるほどね。
 
 
  その転職、きっとXXXXXXと思うよ」
 
 
 
 
 

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